

農業従事者が生成AIを通したチャットボットに質問をすることで、特定のコミュニティや状況に沿った回答を瞬時に得られるとしたら?これこそ、 Digital GreenがOpenAIで構築した体験なのです。Farmer.Chatと呼ばれるこのサービスは、インドやケニアなど、さまざまな国々の農業改良普及プログラムの重要な活動をサポートしています。
気候の変化に対処する農業従事者にとって、農業改良普及(農業指導サービスとも呼ばれる)は非常に重要です。農業改良普及事業の指導員は、農業従事者と接して栽培指導を行うほか、地元のサプライヤーとつながるための支援や、市場や価格に関する情報の提供を行います。しかし、特に地方の遠隔地では、すべての農家に必要な支援を提供することは大きな課題となっています。40万人以上の農業改良指導員を擁するインドのネットワークでさえ、指導員1人あたりの農業従事者の比率は650人となっています。
過去15年間、Digital Greenはデジタルを活用した農業普及を通じてこの問題を解決することに専念してきました。インド、エチオピア、ケニアの農業省と協力して、50以上の言語で8,000本近くの農業従事者向けトレーニングビデオを作成し、指導員が的確なタイミングで地域に沿った情報をより多くの農業従事者に提供できるよう取り組んでいます。こうしたビデオにより、農業従事者の収入は平均24%増加しています。
Digital Greenは生成AIを活用することで、農業従事者の生活により大きな変化を起こすことができると考えています。Digital GreenのCEO、Rikin Gandhi氏は次のように語っています。「ビデオのおかげで地域内の農場から農場へと成功例を再現することができ、農家は互いに学び合いながら、地域に由来する効果的な農業手法についてのデータベースを拡張させています。」「OpenAIを利用してこのデータベースを駆使し、これまで想像もできなかった規模で農家が互いに学び合える機会が産まれると私たちは考えました」

Digital Greenはこのビジョンを念頭に置いて、OpenAIの技術スイートを活用したFarmer.Chatの開発に着手。GPT‑4を基に構築されたFarmer.Chatの最初のパイロット版は、従来のモデルに比べてハルシネーションの大幅な減少が見られました。Farmer.ChatはRAG(検索拡張生成)を使用して、Digital Greenの膨大な農業情報ライブラリのほか、トレーニングビデオの書き起こし、コールセンターの注釈付きログ、作物調査ファクトシートなど、政府パートナーによる情報を統合しています。また、インドの農業省によって、ナレッジベースにあるすべての文書の検証が行われ、正確性と信頼性が確保されました。
公開当初には、さらなる予防策が講じられました。「チャットボットが農家に誤ったアドバイスをするリスクを防ぐため、チャットボットのナレッジベースを慎重に管理し、チャットボットを直接農家に配備するのではなく、農業普及指導員のアシスタントとして導入しました。こうすることで、人間による再確認が可能になります」とGandhi氏は説明しています。

農業改良普及のためのカスタムAIチャットボット、Farmer.Chat
「OpenAIを利用してこのデータベースを駆使し、これまで想像もできなかった規模で農家が互いに学び合える機会が産まれると私たちは考えました」
Farmer.Chatの成功を受け、Digital Greenはこのほど既存のチャットボットをより強力にする機能を備えたFarmer.Chat GPT for ChatGPT(新しいウィンドウで開く)を発表。マルチモーダル入力の新しいオプションにより、指導員は農家で栽培される植物の写真を撮影し、問題があれば、より正確かつ的確なタイミングで診断を得ることができます。チャットボットは、天候や市場に関するリアルタイム情報も提供します。

Farmer.Chat GPT for ChatGPT
初期の推定では、Farmer.Chatは生成AIを活用することで、従来の普及サービスのコストを農家あたり35ドルから0.35セントと、百分の一に下げることができるとされています。こうした生産性向上に寄与した要因の一つとして、Farmer.Chatがヒンディー語、スワヒリ語、地域の言語など数多くの言語に対応していることが挙げられます。これには各国のローカル言語の翻訳データセットとサービスを統合した柔軟な技術スタックが用いられています。
普及指導員は、Farmer.Chatに自身の専門性を高める自己学習ツールとしての役割も見い出しています。「チャットボットは非常に有益で使いやすいのが特徴です。自身の知識を深めてくれるだけでなく、農家が抱える問題に対して、以前と比べて1日でより多くの問題に即座に解決策を提供できるようになったため、自信がつきます」と、ビハール州政府の農村生計促進協会の指導員、Raju Kumarさんは語っています。
2024年1月1日現在、ケニアとインドの両国で4,500人以上の改良普及指導員がFarmer.Chatを利用しています。Digital GreenはFarmer.Chatの改良を続け、インドの12の州に展開を拡大しました。
Farmer.Chatで有望な結果を得られたことから、Digital Greenは製品をさらに良くするための改善方法を模索しています。農業特有の表現を扱うチャットボットの能力を向上させ、英語に翻訳することなく現地の言葉での質問と回答を可能にするために、 「Agri-LLM 」のファインチューニングがもたらす影響を検証中です。このモデルは、農業従事者が自身に最も関連するデータの管理と使用を継続的に監視できるようにするため、データトラストを通じて提供されるデータで訓練される予定です。Digital Greenはまた、WhatsAppやTelegramなど、すでに指導員が使用しているインターフェースにFarmer.Chatの機能を備えるため、Assistants AP(新しいウィンドウで開く)の使用を開始しています。
2023年にアイデアの種が産まれてから、Digital Greenの経験とビジョンは急速なペースで成長を続けています。「GPT‑4、ChatGPTのGPT、そして現在のAssistants APIを使用してFarmer.Chatの開発を繰り返すにつれて、指導員がさらに大きな影響を与えられるよう、マルチモーダルなプロンプトとコンテキストに即したガイダンスを提供する能力を徐々に向上させてきました。Farmer.Chatは農業従事者の専門知識を活用して、指導員と農業従事者による豊かな農業エコシステムの構築を可能にする、農業における多機能な相棒となり得る可能性があります」とGandhi氏は語っています。


