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OpenAI

2026年6月11日

応用 AI

天体物理学者による Codex 活用:ブラックホールのシミュレーションへの挑戦

ブラックホールの周囲を動く電子やイオンをシミュレーションするアルゴリズムの改良・検証に向けた、Chi-kwan Chan 氏による Codex の活用

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ブラックホールの周囲では重力が極めて強く、一定の距離まで近づくと、光さえも逃れることができません。Chi-kwan Chan 氏をはじめとする天体物理学者は、コンピューターによるシミュレーションと観測を通じてブラックホールを研究しています。しかし、現在のアルゴリズムと計算能力では、シミュレーションで現実をどこまで忠実に再現できるかに限界があります。

アリゾナ大学とスチュワード天文台の研究者である Chan 氏は、Codex を使ってこの課題に取り組んでいます。

同氏によると、ブラックホールはアインシュタイン氏の一般相対性理論を検証するのに最も適した場所の一つです。一般相対性理論は、現在、重力を最もよく説明する理論です。重力を物体同士が引き合う力ではなく、質量とエネルギーによって空間と時間がゆがむことで生じるものと捉えます。

Chan 氏は、2019 年にブラックホールの画像を初めて公開した国際共同研究プロジェクト、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)に参加しています。チームは現在、超大質量ブラックホールの初の動画を制作するため、M87 銀河の中心にあるブラックホールに焦点を当てて観測データを集めています。 

しかし、観測結果から科学的な理解を得るには、膨大なデータ処理、大規模な計算ワークフロー、そして宇宙で最も極端な物理現象の一部をモデル化できるシミュレーションが必要です。

光はブラックホールから脱出できないため、科学者は代わりに、その周囲にある「事象の地平面」と呼ばれる領域を研究します。これは、いったん越えると物質が脱出できなくなる境界です。「一度越えたら戻れない面なのです」と Chan 氏は説明します。この境界のすぐ外側で渦を巻く物質は光を放ちます。天体物理学者はその光を観測し、測定し、シミュレーションで再現できます。 

EHT が 2019 年に公開した画像には、事象の地平面付近で輝くプラズマに囲まれたブラックホールの影が写っていました。Chan 氏は、チームが観測結果を解釈するために用いたシミュレーションツールと計算ツールの開発に携わりました。それ以来、チームが静止画から動画へと歩みを進めるなかで、Chan 氏と同僚たちは観測機器と観測能力の向上に取り組み続けています。

天の川銀河の中心にあるブラックホールの周囲でプラズマが動く様子を、スーパーコンピューターのシミュレーションで再現した短い動画です。 

提供: EHT Theory Working Group / CK Chan 氏

らせん運動がもたらす課題への挑戦

Chan 氏とチームにとって最大の壁の一つが、ブラックホールの周囲にあるプラズマのモデル化です。プラズマは、電荷を帯びた電子とイオンからなる超高温の物質です。

多くのシミュレーションでは、プラズマを流体として扱うことで単純化し、よく知られた方程式を使ってブラックホールの周囲での動きをモデル化しています。この方法は、電子とイオンが絶えず衝突する高密度のプラズマでは、比較的うまく機能します。 

しかし、Chan 氏らが研究している超大質量ブラックホールの近くには、プラズマが非常に高温かつ希薄になり、粒子同士がほとんど出会わない領域があります。「粒子同士はほとんど衝突しません」と同氏は言います。その代わり、粒子は主に磁力線の周りをらせん状に動きます。 

この振る舞いを正確にモデル化するには、ブラックホールの周囲で高速のらせん運動をする何兆もの電子とイオンを追跡する必要があります。通常のシミュレーションでは、その微細な回転を一つひとつ計算しなければならず、コンピューターは極めて短い時間刻みで計算を進める必要があります。

その結果、世界最速のスーパーコンピューターでさえ、科学者が本来研究したい大きなスケールの振る舞いをシミュレーションするのではなく、こうした粒子の微小な運動の計算に大半の時間を費やすことがあります。

「この問題が何十年もの間、ブラックホール周辺のプラズマを現実に即してシミュレーションするうえでの制約になってきました」と Chan 氏は語ります。

AI を活用したデジタルツインの精度向上

Chan 氏は、新しい数学的手法を使えば、こうした制約の一部を回避できるのではないかと考えました。基本的な発想は、シミュレーションで粒子の運動を追跡する方法を数学的に変え、コンピューターが微小ならせん運動を一つひとつ直接追わずに済むようにすることでした。

「ただ、数学的な可能性をすべて手作業で探るには、膨大な時間がかかったはずです」と Chan 氏は言います。そこで同氏は Codex の力を借りて、候補となるアルゴリズムを導き出し、既知の解と照らし合わせて検証することにしました。

Codex は数多くのアプローチを提案しましたが、すべてが正しいわけではありませんでした。「それでも構いません」と Chan 氏は言います。「科学のアイデアは、ほとんどがうまくいかないものです。大切なのは、これらのアルゴリズムを検証できるということです。うまく機能するものが一つでも見つかれば、これまで不可能だったシミュレーションが実現する可能性があります」 

AI システムのなかには、結論に至る手順を示さずに結果を返すものもあります。一方、Chan 氏のグループは Codex を使い、自分たちで中身を確認し、検証し、物理的な意味を理解できる数値計算手法の提案と実装を行っています。

大規模言語モデルは依然として間違いを犯すため、多くの科学者は研究での AI 活用に慎重な姿勢を保っています。しかし Chan 氏は、科学のアイデアは厳密に検証できるからこそ、科学研究は現在の AI システムに最も適した用途の一つになり得ると考えています。

「私たちは、アインシュタイン氏や優秀な学生、あるいは AI モデルが生み出したという理由で、アイデアを受け入れるわけではありません」と同氏は言います。「繰り返し検証して初めて、受け入れるのです」

Chan 氏は AI を、検証と再現性を重視する姿勢を保ちながら、研究者がより多くのアイデアを探り、より速く検証し、発見を加速させるためのツールと捉えています。

Chan 氏が Codex とともに検証しているアプローチが成功すれば、新しいアルゴリズムによって、いずれブラックホールの周囲にある何兆もの粒子をシミュレーションできるようになるかもしれません。そうなれば、何十年もの間、手の届かなかった物理現象を研究できるようになります。

  • 2026年

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OpenAI