ふるさとチョイス、OpenAI のモデルで構築したエージェント機能でユーザーと自治体の双方を支援
ふるさとチョイスは、Recursive との協業によって、ふるさと納税のお礼の品検索にエージェント機能を導入。

日本のふるさと納税では、納税者は住民税や所得税の一部を、所得に応じた上限の範囲内で応援したい自治体へ寄付できます。東京のような大都市への人口集中で、地方の税収が減少する中、納税者が自分の税金の一部を地域に振り向けられる仕組みです。寄付したお金は翌年の税金から控除され、さらに寄付先の地元の特産品がお礼として届くため、日本各地の魅力を楽しみながら地域を支援できます。
しかし、多くの寄付者にとって、ふるさと納税は「仕組みが複雑で、自治体やお礼の品が多すぎて選べない」という悩みの種になりがちです。そこで役立つのが、ふるさと納税にかかる面倒な手続きをサポートし、地域・テーマなどからお礼の品を探せるふるさと納税プラットフォームです。トラストバンクが運営する「ふるさとチョイス」は、日本最大級の76万超ものお礼の品を取り揃え、初めて寄付する人でも操作しやすいユーザーインターフェイスで、多くの自治体と寄付者を支援してきました。
同社がさらに良いユーザー体験を提供するために着目したのが AI です。「自治体やお礼の品が多すぎて選べない」という悩みを解決するため、OpenAI API を活用した「チョイス AI」機能を開発し、ユーザーが自分にぴったりのお礼の品を見つけられるようにしました。
「ふるさと納税は『手続きが面倒そう』『ハードルが高そう』と感じられがちです。」
ふるさと納税の制度開始から15年以上が経過した現在も、多くの国民が十分に活用できていないのが現状です。ラストバンクのチョイス事業本部プロダクト統括部長の建山雄旗氏は、次のように語ります。「ふるさと納税は『手続きが面倒そう』『ハードルが高そう』と感じられがちです。そこで、もっと気軽に始めていただけるよう、ふるさとチョイスアプリに AI 機能を導入する企画を立ち上げました」。こうして最初に取り組んだのが「AI によるお礼の品の検索」です。
「ふるさと納税では、e コマースのように『自分にとって必要だから商品を検索する』のではなく、自分の寄付上限額をどのように活用するかという観点で検索します。大手ネットショップにも匹敵するほど膨大な数のお礼の品の中から、ピンポイントで自分に合ったものを見つけにくいという難点がありました」

利用者のさまざまな情報や意図を把握しながらユーザーにパーソナライズされたお礼の品の情報を提供することは、まさに AI が得意とする分野です。一方で、トラストバンク社内には AI を専門とする開発者がいなかったため、外部からのサポートが必要でした。そこで同社が頼ったのが、現在は OpenAI の公式パートナーでもある Recursive でした。
プロダクト統括部プラットフォーム推進部長の平野一生氏は、Recursive について「高度な AI 技術力に加え、グローバルな専門性を持つチームであることが、パートナーとして選んだ決め手でした」と話します。
平野氏は「Recursive が企画段階からの技術支援、対話型 AI エージェントの設計・実装、RAG システムの構築を担当し、トラストバンクはお礼の品データベースの整備、機能要件の定義、アプリへの統合を担当しました」と両社の役割分担を振り返ります。その結果、対話をしながらおすすめのお礼の品をたずねることができるチョイスAI が誕生し、ふるさとチョイスアプリへの統合がスムーズに実現しました。
チョイスAI の核となるのがマルチエージェント型アーキテクチャです。ユーザーが入力した内容から意図を汲み取り、その内容をもとにルーティング用の LLM が適切なエージェントにハンドオフします。検索エージェント、おすすめエージェント、挨拶エージェントがその下で動いており、各エージェントの中ではさらに複数のエージェントやツールを呼び出すことで、スムーズかつ正確にユーザーの意図を反映した結果を提供できるようにしています。
また、各プロンプトにおいてもパーソナライゼーションが実施されています。エージェント開発を担当した Recursive のソフトウェア・エンジニアのマシュー・ウォーリー氏は「ユーザーに関する情報に応じて、エージェントを組み合わせて対応できるようにしています」と語ります。「例えば、ユーザーに関する情報がすでにある場合はそれに合わせたパスを、初めて使うユーザーには別のパスを用意します。このように、利用可能なパスを制御するためにプロンプトを動的に生成しています」

現在、チョイスAI では GPT‑4.1 シリーズを活用しています。ウォーリー氏は、「デフォルトでは GPT‑4.1 mini を使用し、レイテンシやテストでの正解率に応じて nano 版またはより大きなモデルへ切り替える運用を試しています」と話します。
実際のユーザー行動の分析から、新たな発見もあったとウォーリー氏は話します。「分析の結果、多くのユーザーは検索エンジンのようにアプリを使い、LLM に多くの商品情報を与えて、すぐに推薦結果を求める傾向があると分かりました。また、アプリにはユーザーに会話のきっかけを与える短いプロンプトも用意しており、これらも頻繁に使われています」と説明します。こうした発見を踏まえ、チョイスAI 自体にも多くの改善を重ねてきました。例えば、より早い段階で推薦を提示するフローに見直したり、推薦される商品のバリエーションを増やし、より多くの商品との出会いにつながるようにしています。
チョイスAI では、以下の2つのふるさと納税の課題を解決しています。
- 対話を通じて、ユーザーのニーズに合った最適なお礼の品を提案することで、「たくさんあって、どれを選べばいいかわからない」という寄付者の課題を解決
- パーソナライズされた提案を通じて利用者がより多くの地域やお礼の品と出会える体験を提供し、注文が特定の自治体やお礼の品に集中している課題を解決
チョイスAI に組み込まれたマルチエージェント型アーキテクチャにより、ユーザーに検索スキルや商品知識がなくても、自然な会話や「両親へのギフト」といった曖昧な会話だけでも最適なお礼の品を発見できる体験を提供しています。
また、チョイスAI では、常に検索結果にランダム性を加えることによって、注文が特定の自治体やお礼の品に集中している課題を解決しています。「地域の公平性を保つため、ユーザーの明示的な好みがない限り、都道府県ごとの寄付データに基づき推薦を分散させています」とウォーリー氏は仕組みを説明します。これにより、小規模な自治体やニッチな商品でも、ユーザーに選んでもらえる確率が上がりました。
その結果、チョイス AI を利用したユーザーは、通常のサイト内検索を利用したユーザーよりもコンバージョン率が高くなっています。平野氏は、その背景について「ユーザー自身も言語化しにくかった好みや予算といった曖昧なニーズを AI が引き出し、具体的なお礼の品まで提案できたから」と説明します。
現在、ふるさとチョイスにおける AI 活用は、主にお礼の品検索の体験向上に寄与しており、ユーザーが自分に合ったお礼の品をスムーズに見つけられるよう支援しています。今後はさらに幅広い領域で AI を活用し、サービス全体の価値を高めていく計画です。
建山氏は、ふるさとチョイスを「『お得』ではなく『応援したい』という気持ちで、寄付者と自治体を結びつけられるサービス」へと進化させたいと語ります。そのために、AI を活用したレコメンドの質を一層高めるだけでなく、ふるさとチョイスというサービス自体を AI でパーソナライズし、寄付者一人ひとりに寄り添うコンシェルジュのような存在へと育てていくことを目指しています。


