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ChatGPTで言語の橋渡しをするミネソタ州Enterprise Translations Office

緑色のグラデーションの背景に、白色の様式化された小文字「mn」が中央に配置され、その周りを吹き出しのような抽象的な形が囲む画像。

政府のサービスが真に効果的なものになるためには、全ての住民がアクセスできるものでなければなりません。言語の壁を取り除くことは、質の高い公共サービスを提供するために不可欠です。これは、2023年にミネソタ州の行政部門に専用の翻訳サービスを提供するために設置されたEnterprise Translations Office(ETO)の設立理念です。

ミネソタ州民の20%以上が英語以外の言語を主に話しており、スペイン語、ソマリ語、ミャオ語が同州で使用される英語以外の言語の上位3ヶ国語(新しいウィンドウで開く)です。政府のコミュニケーションにおける言語の壁は、地域社会の保健、安全、信頼において課題となっています。ETOは、全ての人が政府の情報やリソースに公平にアクセスできるようにし、言語の橋渡しをすることで、より強く包摂的なミネソタ州を作ろうとしています。

ChatGPTで精度、速度、公平性を向上

政府機関は、かねてより翻訳サービスを提供するために努力を続けてきましたが、ミネソタ州も多くの州と同じく課題に直面しています。同州の翻訳プロセスはかなり分散しており、外注するなど各部門が異なる方法に頼っていたため、品質が安定せず、コストが嵩み、1つの依頼で1ヶ月もの遅れが出ることもありました。通訳サービスも同様に困難で、公認された通訳者へのアクセスが限られているため、州民が重要な法律・地域サービスを効果的に利用することが難しくなっています。

こうした問題に対処するため、ETOはAIの活用を始めました。ChatGPTをソリューションの柱として採用し、翻訳サービスをより迅速、正確、公平に提供できるようにしました。ETOは、ミネソタ州のITサービスプログラムであるTransparent Artificial Intelligence Governance Alliance(TAIGA)と緊密に連携し、プログラムが安全で倫理的かつ透明性の高いAIの原則に従っていることを徹底しました。ChatGPTを翻訳の初期段階に組み込み、人による綿密な校正と品質保証を行うことで、ETOは公共部門における言語のインクルージョンの新たな基準を打ち立てる、より効率的なワークフローを確立しました。

Enterprise翻訳プロセスを示すフローチャート:コンテンツ抽出、ツール選択(カスタムGPT/ChatGPT)、ChatGPT、品質保証、フォーマット&確認、翻訳完了。

ETOのディレクターであるAdam Taha氏が述べるように、「精度とスピードのバランスが問題の核心」です。AIを活用したソリューション、特にChatGPTを導入することで、ETOはこの課題に対処し、翻訳サービスのスピードと精度の両方を高めることができました。

ETOのChatGPT搭載ワークフローは、翻訳精度だけでなく、文化的な関連性も想定して最適化することで、政府メッセージのアクセシビリティと包摂性を保証しています。例えば、ミャオ語とソマリ語については、ETOは文化に関わる用語と翻訳を含むスプレッドシートを作成し、これをGPTに組み込んでモデルの文化的認識を向上させました。ETOの翻訳エキスパートがChatGPTの翻訳を校正、修正した後、将来の参照用にカスタムGPTにアップロードするプロセスを組み込むことで、ETOは品質保証を大幅に高速化し、翻訳ごとに必要な編集を減らし、ミスや矛盾が二度発生しないようにしました。

このプログラムの成功により、ベータ版開始からわずか4ヶ月後の7月にはETOのチームメンバー全員が翻訳業務にChatGPTを活用できるよう研修を受け、全面的な展開に至りました。現在では、ETOはChatGPTの音声機能をリアルタイム通訳に使用するテストとして、別の州機関と共に限定的なパイロットプロジェクトを支援しています。この試験では、英語を話さない州民が様々なリアルタイムの状況にアクセスしやすくすること、英語が不自由な人に迅速かつ効率的なコミュニケーションを提供することを目的としています。初期の結果は有望です。成功すれば、試験をさらに多くの場所に拡大し、やがてミネソタ州民全員が公共サービスを利用しやすくします。

ミネソタ州民に実感できる恩恵を実現

ChatGPTを統合した翻訳プロセスは、ETOとその地域社会にとって欠かせないものとなっています。ETOのミャオ語担当チームリーダーであるKarine Lao Her氏は話します。「ミャオ語用カスタムGPTの精度をさらに高めていくなか、ミャオ語翻訳サービスは今後数ヶ月で急成長すると見込んでいます。地域社会と州のリソースとの繋がり方に早くも大きな違いが現れています。」

ChatGPTにより、ETOとミネソタ州行政部門がミネソタ州民にサービスを提供する能力は、4つの顕著な形で大幅に向上しました。

  • 迅速な納品:従来では数週間かかっていたものが今では48時間以内に完了し、至急の翻訳依頼では2時間で対応できます。ベータ版の開始以来、ETOは3000件以上の翻訳依頼を処理し、200万語以上を翻訳してきました。
  • 財務効率:この新しいプロセスを採用したことで、ミネソタ州はより効率的に資源を配分できるようになり、結果として毎月10万ドル以上の財政的利益を他の戦略的な州施策に還元しています。
  • サービス拡大:ETOは、ミャオ語、ソマリ語、スペイン語に加え、現在ではChatGPTでフランス語、アラビア語、平易な英語、ピジン英語を含む言語の翻訳と品質保証サポートを提供しています。また、ChatGPTと連携するETOのサービスを利用し、外部業者で品質保証を実施する依頼者に対して費用の払い戻しを行うことで、より多くの言語へのサポートも提供しています。
  • 政府サービスへのより公平なアクセス:ソマリ語担当チームリーダーであるDaha Gobdoon氏は、「Aqoon La’aani waa Iftiin La’aan」(知識なきは光なきに等しい)というソマリ語のことわざを引用しながら、知識の文化的重要性について考察します。「地域社会が困難に直面したとき、彼らの言語で情報を伝えることは不可欠ですが、適時に伝えることはしばしば困難です。現在、重要な書類をいつまでも待つ必要がなくなったことで納品が迅速化し、私たちの地域は欠かせない政府情報をかつてないほど迅速に受け取ることができるようになりました。」

オーダーメイドの言語ソリューションで管理局をサポート

ETOの施策の効果は、ミネソタ州成果達成技術システム(System of Technology to Achieve Results:STAR)プログラム(新しいウィンドウで開く)を含む数多くの部門にも伝播しています。管理局内の小さな部門であるSTARプログラムは、ミネソタ州の障害者や高齢者に支援技術を提供しています。長年STARプログラムは英語を理解する住民としかコミュニケーションがとれず、支援範囲が限られていました。現在のSTARプログラムは、スクリーンリーダーや音声生成デバイスなどの支援技術で提供されるテキストの多言語翻訳に対応するなど、従来は実現不可能だった方法で支援範囲と効果を広げています。また、ETOは、最善慣行や安全な使用のガイドライン、ライブデモを提供することで、AIを業務に統合する方法を理解する手助けをし、管理局の他部門を支援しています。

ミネソタ州STARプログラムの担当者は話します。「ETOと協力して住民の各言語で資料を作成できることに期待感が高まっています。これらの新しいリソースがあれば、全てのミネソタ州民にサービスを提供するという目標に近づくことができます。」

翻訳による包摂性の推進

Adam Taha氏は言いました。「翻訳とはコミュニケーションです。翻訳がなければ、コミュニケーションは排他的なものになります。」

ミネソタ州のETOは、翻訳の向上を通じて、従来では取り残されてきた地域社会をはじめとして、行政サービスへのアクセスを拡大しています。このアプローチは他州にとって有意義な前例となり、従来の言語の壁を取り払い、ミネソタ州の多様な地域社会へのアクセシビリティとインクルージョンを拡大するAIの活用法を示しています。