ミレニアム懸賞問題の一つであるナビエ–ストークス方程式の存在と滑らかさの問題について、解法を公開します。OpenAI の社内システムが生成したこの証明は、流体運動を表すナビエ–ストークス方程式のダイナミクスが有限時間内に特異点を形成し得ることを示しています。証明の解説と Lean による形式化の両方を公開します。
ミレニアム懸賞問題(新しいウィンドウで開く)は、数学のフロンティアにある最も深遠な問題群です。滑らかな三次元流体運動が破綻し得るかという問題は、約 90 年にわたり未解決のままでした。
私たちの取り組みの大きな目標は、科学者が全人類に恩恵をもたらす研究と技術を前進させられるよう支援することです。ナビエ–ストークス問題の解決には、GPT‑6 Astra を大幅に上回る能力を持つ社内モデルを使用しました。AI の進歩の速さと、今後のモデルに期待できることを世界に伝えるのは重要だと考えています。
ナビエ–ストークス方程式は、ニュートンの運動の第 2 法則(「F=ma」)を用いて流体の動きを記述します。重要なのは、個々の分子を追跡するのではなく、流体を連続体として扱う点です。この方程式は、航空機の設計、天気予報、血流の研究に用いられています。
この力学方程式をめぐる根本的な未解決問題は、流体の連続体近似が破綻し得るかどうかでした。具体的には、一定密度の三次元非圧縮性流体に対するナビエ–ストークス方程式は、運動が滑らかに始まった場合でも「特異点」を形成し得るのでしょうか。ここで特異点とは、ダイナミクスによって流体の速度が有限時間内に際限なく増大することを意味します。特異点が形成されるとすれば、運動を滑らかにする方向に働く粘性が存在するにもかかわらず起きなければなりません。現実の流体が無限の速さで動くことはないため、これは方程式による流体モデルの破綻を意味します。その後も系のモデル化を続けるには、各粒子の挙動を個別に追跡する必要があります。
この方程式は、19 世紀の Claude-Louis Navier 氏と George Gabriel Stokes 氏の研究にさかのぼります。1934 年、Jean Leray 氏は一般化された意味で解が存在することを証明しましたが、解が常に滑らかさを保つかどうかは中心的な未解決問題となりました。2000 年、クレイ数学研究所はナビエ–ストークス方程式の存在と滑らかさの問題を、7 つのミレニアム懸賞問題の一つに選定しました。
私たちのシステムは、初期状態で静止している滑らかな流体が有限時間内に特異点を形成し得ることを示す解析的証明と Lean による形式化を生成しました。流体には滑らかな力が加えられ、静止状態から特異点の形成に至る全ダイナミクスを通じて、そのエネルギーは有限に保たれます。これは、ミレニアム懸賞問題の公式定式化(新しいウィンドウで開く)における命題「C」(および「D」)を確立し、ナビエ–ストークスのミレニアム懸賞問題を解決するものです。
解となるのは、回転する流体の渦です。内側へ螺旋状に進みながら、スパゲティのように次第に細長く伸びていきます。この中心領域は縮小しながら加速しますが、物理法則が求めるとおり、エネルギーは有限に保たれます。技術的な難しさは、たとえば人為的に無限大の力を加えるのではなく、流体自体の運動によって方程式に破綻を生じさせることにあります。数学的に詳しく言えば、運動を記述するナビエ–ストークス方程式の各項、すなわち加速度、圧力勾配、運動量移送、粘性が、いずれも大きくなりながら、厳密な形で互いに相殺しなければなりません。この精緻な均衡により、流体の速度が際限なく増大しても、外力は滑らかなまま保たれます。

局所的な非圧縮性運動の一場面。オレンジ色は速い角回転、青緑色は遅い回転を示します。周方向速度は半径にも依存します。軌道は、内向きの螺旋運動と軸方向の伸長を示しています。
私たちは 8 月 28 日から、数学を含むベンチマークで前例のない性能を示す新たな社内モデルを訓練してきました。このモデルは現在も訓練中で、性能は向上し続けています。
9 月 1 日火曜日、2 つのミレニアム懸賞問題が解決されたという噂を耳にしました。この噂と社内モデルの飛躍的な性能向上を受け、未解決の全ミレニアム懸賞問題と、影響の大きいその他いくつかの問題でモデルを評価する取り組みを開始しました。
社内モデルを基盤とする、複数のエージェントが連携するシステムを使用しました。エージェントは、キャッシュされたインターネットの情報を読む機能や、コードを実行する機能などのツールを利用できました。エージェントはグループに分けられ、各グループ内で相互に通信できました。グループの規模はさまざまで、ナビエ–ストークス問題の解決に至ったグループでは、約 1 万のエージェントが同時に稼働しました。その間、監視や隔離を含め、すべてのフロンティアモデル評価に適用しているものと同じ厳格な安全対策を常時維持しました。
各問題について、問題のあらゆる変種を網羅するよう、異なるエージェントグループに異なる形式の問題文を提示しました。ナビエ–ストークス問題では、証明につながる特定形式の「A」と「B」、反証につながる「C」と「D」を、それぞれ別のエージェントグループに提示しました。
完全なミレニアム懸賞問題に加え、マルチエージェントシステムには、より「容易な」一連の問題にも取り組ませました。その一つは、ナビエ–ストークス問題から粘性項を除いた極限における、類似の爆発問題でした。これはオイラー方程式の正則性問題として知られていますが、エージェントがこの問題を解決したことは私たちにとって驚きでした。エージェントが解決したのは、流体に外力を加えない外力なしの問題でした。約 100 のエージェントが約 50 時間にわたり連携し、オイラー方程式の正則性に対する反証を生成しました1。
オイラー方程式の解法を確認した時点で、最も有望な問題はナビエ–ストークスだと判断しました。そこで、リソースをナビエ–ストークス問題に集中させることにしました。そのため、エージェントをほかのミレニアム懸賞問題から移し、オイラー方程式の解法をプロンプトとして与えました。取り組みの途中で、訓練をさらに進めた社内モデルが利用可能になると、エージェントをそのモデルに更新しました。
各エージェントグループには、多様なアプローチを探るよう促しました。しばらくしてから、Codex を使って各エージェントグループの最も有用な知見を集約し、グループ間で共有しました。こうした追加プロンプトには、エージェント自身が得た中間結果を活用しました。ナビエ–ストークス問題の解法を発見したグループも、この方法で導かれました。
最初のエージェントを起動してから約 88 時間後の 9 月 5 日土曜日、エージェントは解決に到達しました。Lean による形式化と検証には、GPT‑6 Astra を介してさらに 17 時間を要しました。
取り組んだ全問題を通じて、エージェントは 490 万件のメッセージを送信し、約 3,000 億の出力トークンを使用しました。ナビエ–ストークス問題の解決過程では、エージェントは 270 万件のメッセージを送信し、約 1,300 億の出力トークンを使用しました。
私たちの取り組みは、後に Anthropic 社員の Levent Alpöge 氏とニューヨーク大学の数学教授 Tristan Buckmaster 氏に関するものだと判明した噂を受け、9 月 1 日に始まりました。2 プロジェクト全体と Lean による検証が 9 月 6 日に完了した後、噂から両氏もナビエ–ストークス問題の解法を得ていると考え、成果の同時公開を提案するとともに、共同発表で両氏の先行性を認めるために連絡しました。その時点で、両氏が Anthropic の社内モデルを使い、外力ありオイラー問題を解決していたことが分かりました。この協議では、私たちが使用したすべてのプロンプトを両氏に開示することを申し出て、後には証明も確認できるよう提案しました。外力ありオイラー問題に関する両氏の研究の先行性を認め、その卓越した数学的成果をたたえます。
私たち(研究者とエージェント)は、両氏が研究を公開するまで、いかなる手段でもその内容を目にしていません。特に、この問題を解決するために特定のユーザーデータへアクセスした事実はありません。
調査の結果、2026 年 9 月 8 日の本発表および論文公開に先立つ 2 か月間に Buckmaster 氏が Codex に入力したプロンプトは、訓練を含め、いかなる形でもシステムに影響し得なかったことを確認しました。今回の成果に用いた OpenAI の社内モデルは、事前訓練済みモデルを基盤に、大規模な強化学習を通じて開発されました。双方の証明も大きく異なります。オイラー方程式について、Alpöge 氏と Buckmaster 氏は外力ありの結果を証明したのに対し、OpenAI のシステムは外力なしの結果を証明しました。
この成果を公開する目的は、私たちの AI モデルが遂げた大幅な進歩を報告することです。この成果でミレニアム賞を請求する意向はありません。
この節目は、数学者と AI 研究者による多大な取り組みの成果です。しかし、これは到達点ではなく、AI 開発の進歩をある時点で切り取ったものにすぎません。
私たちは今、AI の進歩における次の時代に入ったと考えています。今回の成果は、それをさらに裏付けるものです。私たちはこのモデルの理解に注力し、そこで得た知見を、今後の能力向上をどのように導き、どのようなペースで進めるかの判断に役立てています。私たちの主要目標の一つは、制御可能で、説明責任を果たし、人々とつながる AI システムを構築することです。AGI が全人類に恩恵をもたらすようにするという使命を追求し続けるうえで、進歩のペースについて、より慎重な判断が必要になる場合もあります。
著者
脚注
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