LegalOn Technologies、Codex のコスト半減と開発速度を両立
LegalOn Technologies は、Astra、Sol、Luna をタスクに応じて使い分け、戦略的に予算を管理することで、開発スピードを維持しながら日時推計コストを65%減らすことに成功しました。

成果
-20%
成熟した事業ドメインでのコスト削減率
成果
-65%
日次推計コストの削減率
LegalOn Technologies は、法務をはじめとする経営の主要領域をAIで支援する「Professional AI」をグローバルに展開しています。専門領域の知見と AI 技術を掛け合わせ、担当者が高度な判断や意思決定に専念できる環境を整え、経営判断の質とスピードを高める「AI駆動経営」の実現を目指しています。
この思想は製品開発にとどまらず、組織自体の「AI ネイティブ化」へと波及。開発プロセスへ Codex を組み込み、実務を通じた活用を全社的に広げていきました。
しかし、活用が定着したからこそ直面したのが、コストコントロールという新たな課題です。高性能モデルを無制限に使えばコストが膨らむ一方、一律で利用を制限すれば AI で引き上げた生産性まで損なわれかねません。
開発スピードを維持したまま、いかにコストを削減するか。このトレードオフに対し、LegalOn Technologies はタスク難易度や工程に応じた GPT‑6 Astra、GPT‑6.1 Sol、GPT‑6 Luna の使い分けと、事業フェーズに合わせた予算管理を導入。開発速度を保ったまま、コスト半減を成し遂げました。
同社では当初、開発メンバーを対象に、主力モデル「GPT‑5.5(Fast mode)」を制限なく利用できる環境を整備。開発メンバーは、設計や実装、日常業務へと活用領域を広げ、試行錯誤を経ながら「AI と人間の最適な役割分担」を実務の中で確立していきました。
しかし、高性能モデルを無制限に使い続ければ、年間予算の超過は避けられません。そこで同社は AI 専門組織「AI-powered Development CoE(AID CoE)」を中心に「推奨モデルの選定指針」の整備に着手しました。AID CoE がモデルの検証やモニタリングを行い、その知見をマネージャーが現場へと展開。エンジニア一人ひとりが、タスクごとに最適なモデルを自律的に選択できる体制を構築しました。
ルール整備においては、一律で最上位モデルに頼る運用から「適材適所の使い分け」へのシフトを図りました。まずは軽量モデルをベースに置き、難易度に応じて段階的にレベルを引き上げていく運用へ切り替えたのです。
同時に、ガバナンスを機能させるために管理者設定によるシステム制御を導入し、部門や個人ごとに月次の利用上限を設定しました。AID CoE が利用状況をモニタリングし、業務上の必要性に応じて上限を柔軟に引き上げる運用を整えています。
このシステム統制のもとで社内検証を重ね、選択基準をさらに具体化していきました。要件が明確なコード実装には最軽量の「GPT‑6 Luna」、標準的な設計やデータ分析・資料作成には「GPT‑6.1 Sol」、そしてアーキテクチャ設計をはじめとする高度な判断には最上位の「GPT‑6 Astra」を割り当てます。この「適材適所の使い分け」が、次第に現場の共通認識として浸透していったのです。
GPT-6 Luna
日常の実行・実装、日常的なオートメーションの実行、比較的単純な作業・分析の委譲、コード実装(主にサブエージェントとして活用)。
GPT-6.1 Sol
通常の設計・分析、比較的単純なソフトウェア設計、通常の数値分析・資料作成、Luna よりも作業時間を短縮したい場合。
GPT-6 Astra
複雑な分析・設計と統括、複雑な分析・資料作成、複雑なソフトウェア設計、エージェント全体の統括(オーケストレーター)。
また、こうしたモデル選択と並行し LegalOn では「Fast mode」を原則制限し、必要時のみ個別申請を認める運用へ切り替えました。開発スピードへの影響が懸念されたこの変更も、タスクの並行処理といった現場の工夫でカバー。パフォーマンスを維持したまま、新たな体制へとスムーズにシフトしました。
さらに、AI 関連の予算を部門、グループ、個人の単位で割り当てる「キャップ」の運用をスタートしました。すでに成長フェーズにある「LegalOn 事業」では最大約2割の効率化を求める一方、立ち上げフェーズの「新規事業」には潤沢な予算枠を確保し、積極的な AI 活用を促しています。
同社 Senior Engineering Manager の時武佑太氏は、新規事業ではコストの効率性よりも事業スピードを最優先し、AI を使い倒してアウトプットを増やして最終的に事業を成長させることを重視したと語ります。
モデル選択、機能制限、そして事業に応じた予算配分。一連の取り組みは、コスト低減においても明確な成果を上げ、日次推計コストが約65%削減することができるようになりました。これにより、全体予算をコントロールしつつ、伸ばすべき事業へリソースを集中投下するという、メリハリのある運用を実現したのです。
一連のモデル最適化と戦略的なリソース配分による成果は、以下のとおりです。
最上位モデルの一律利用から、タスクの難易度や工程に応じて GPT‑6 Astra、GPT‑6.1 Sol、GPT‑6 Luna を使い分ける適材適所の開発行動への転換
Fast mode の原則制限後も、タスクの並行処理など現場の工夫により、開発パフォーマンスを落とさず運用を継続
キャップ導入により、成熟事業の約2割の効率化と、新規事業での積極投資を両立
日次推計コストが、GPT‑6 / 6.1シリーズの使い分けで GPT‑5.5と比較し65%も削減
徹底したモデル最適化により、同社は開発スピードや品質を落とすことなくコスト抑制に成功しました。現場でも、AI の活用により、開発からリリースまでのサイクルが着実に早まっています。
しかし、同社が見据えるのはその先です。開発スピードさえ上がれば、AI 投資は成功といえるのか──。同社が直面していたのは、「開発スピード」の向上と、「顧客価値」との結びつきが不透明な点でした。時武氏も、「AI により、システムの開発やアップデートを高速化できるのは、いわば当然のことです」と語ります。「私たちが本当に見極めたいのは、その開発スピードの向上が、実際に顧客価値へ還元されているかという点です」
この課題意識から、同社は AI 投資の評価軸を「開発速度や利用量」から「顧客価値」へとシフトさせる独自指標の開発に着手しました。
時武氏は以下のように説明します。「AI を利用する際、単発のタスクコストは追えても、機能リリースという『1つの仕事』にかかった総コストはブラックボックスになりがちです。そこで私たちは、1つの機能リリースを1つの単位として設計しました。そのリリースがもたらす顧客価値と、そこに投じた実際の AI コストをひもづけることで、投資対効果を正しく可視化することを目指しています」
現在は指標算出のパイプラインを構築している段階で、これが完成すれば顧客価値に対する「真の ROI」が可視化されます。LegalOn Technologies の挑戦は、単なる AI コスト管理にとどまらず、テクノロジーを事業価値へ直結させる次のフェーズへと進化しています。
同社が次に目指すのは、個々のエンジニアが持つ AI 活用のノウハウを、組織全体のケイパビリティへと昇華させることです。その第一歩として、現場のノウハウを集約・共有するナレッジ基盤を構築を計画しています。設計・実装・レビューの各工程で最適なモデルの組み合わせなどの知識を蓄積して、個人の成功体験を速やかに全社のベストプラクティスへと落とし込んでいく方針を掲げています。
こうした現場主導のアップデートは、組織や採用のあり方にも広がっています。AI による生産性の向上を機に、「人」と「AI」の役割分担や人員計画を根本から再定義。すでに採用基準でも AI 活用スキルを重視し始めるなど、同社の投資戦略や組織構造は新たなフェーズへと進化しつつあります。
AI 活用を真の競争力に変えるには、ガバナンスと現場の自由度のバランスを絶えず最適化し続ける姿勢が不可欠です。現在、推進組織「AID CoE」とセキュリティチームが連携し、性能・コスト・リスクの 3 つを多角的にチューニング。組織全体の挑戦を支える柔軟な体制を構築しています。
「ルールや予算による過度な制約は、組織の推進力を損ないかねません。リスクコントロールと現場のスピード感を高次元で両立させる、しなやかな運用設計こそが求められています」


