全顧客に向けた生成 AI の構築:Itaú の取り組み
ブラジルで特に規制の厳しい銀行業界で、Itaú が対話型インターフェース ia.i とガバナンスプラットフォーム IARA を通じて顧客と従業員に展開する AI First 戦略
約 30 万人
ia.i の第 1 段階での利用顧客数
100%
2026 年末までに提供を目指す顧客の割合
9,000 万件以上
法務向けソリューションの保管庫にある文書数
20%~80%
部門の業務プロセスにおける効率向上
ブラジルのような国で、数百万人もの顧客に寄り添い、一人ひとりに合った体験を提供するには、モデルの選定以上に、まずシンプルさが重要です。
「大切なのは、わかりやすく、シンプルで役立つものをつくり、お客さまに直接メリットを届けながら、テクノロジーの存在をほとんど意識させないことです」と、Itaú の CTO、Carlos Eduardo Mazzei 氏は語ります。
同氏が掲げる基準は高いものです。ソリューションは日常の現実的な問題を解決し、わかりやすく、シンプルで、記憶に残るものでなければなりません。テクノロジーはあくまで手段であり、体験の主役ではありません。
こうした体験へのニーズは確かにあります。Itaú が Grupo Consumoteca と共同で行った調査によると、ブラジル人の 80% が暮らしのお金をもっときちんと管理したいと考え、意思決定に役立つ支援を求めています。また、65% が、お金の相談役として継続的に助言してくれるテクノロジーを望んでいます。
「OpenAI のモデルは、これほど幅広いソリューションに対応できるため、この体験の実現に非常に重要な役割を果たしました」
取り組みが始まったのは 2024 年です。同行は、特定の金融ニーズに応える Inteligência Itaú の初期機能を導入しました。その次の段階が ia.i です。テキストや音声で利用できる包括的な対話レイヤーとして、当座預金口座、融資、カード、保険などのサービスに関するやり取りを 1 つの環境に集約し、必要に応じて専門の担当者によるサポートにつなぎます。
モデル選びの決め手となったのは、まさにこの対応範囲の広さでした。
「OpenAI のモデルは、これほど幅広いソリューションに対応できるため、この体験の実現に非常に重要な役割を果たしました」と Mazzei 氏は説明します。「コストと応答時間の効率が求められるごくシンプルなものから、適切な回答のために推論と十分なグラウンディングを必要とする、より複雑なソリューションまで対応できます」
単一ではなく複数のモデルを使い分けることで、包括的なソリューションを 1 つの製品として提供できるようになりました。この体験の中心にあるのが Customer DNA です。約 7,000 万人の顧客のニーズ、習慣、ライフステージを銀行が理解するための、金融に関する背景情報を提供するレイヤーです。ガバナンスと責任ある AI の管理体制のもと、GPT モデルもこの顧客像を維持・充実させる構成要素として機能し、一人ひとりに合ったやり取りを段階的に実現しています。
このソリューションは、双方向性、マルチモダリティ、個別化という 3 つの原則に基づいています。マルチモダリティとは、テキスト、音声、画像、クリックを同じ体験の中で使えることを意味します。
第 1 段階では約 30 万人の顧客に提供し、顧客と製品の実際の関わり方を学ぶ期間に入りました。
「お客さまがこの製品をどう使いこなすようになるのかを理解し、一人ひとりの日々のお金の管理にどのような直接的なメリットをもたらせるかを確認できます」と Mazzei 氏は語ります。口座明細の支出に関する質問から、投資のアドバイス、WhatsApp での手軽な取引まで、顧客がサービスを利用するさまざまな場面で活用されています。
「金融の世界にはわかりにくい商品も多く、こうした背景情報を踏まえ、お金ともっとシンプルに向き合えるようにすることが必要です」
顧客の目に触れる体験の裏側には、アーキテクチャに関する判断があります。銀行規模で AI を運用するため、Itaú は IARA を構築しました。ガバナンスとオーケストレーションのためのプラットフォームで、行内のポリシーに従い、各チームにさまざまなモデルへのアクセスを管理された形で提供します。OpenAI も、この環境で利用できるモデルの提供元の 1 つです。
このレイヤーは、法務部門向けなどのソリューションを支えています。法務部門では、プラットフォームが文書の読み取り、分析、解釈を自動化します。このソリューションは、9,000 万件以上の文書を収めた保管庫を対象に、毎月 200 万件以上のタスクを実行しています。部門の業務プロセスの各段階で、20%~80% の効率向上を実現しています。
「これらの情報を保護し、銀行内の環境にとどめたまま、安全かつ統制の取れた形でモデルにアクセスすることが不可欠です。同時に、トークンの利用効率を把握し、ソリューション全体を銀行にとって経済的に成り立つものにする必要があります」と Mazzei 氏は語ります。
IARA は、トークン単位のコスト管理、回答の正確性、責任ある AI ポリシーの適用という 3 つの課題に同時に対応します。これにより、厳しい規制のある業界でも、統制を維持しながら迅速に取り組みを進められます。
「当行では、責任ある AI を、細心の注意を払って取り組むべき領域として位置づけています」と同氏は語ります。「お客さまと銀行とのやり取り、そして私たちの回答は、当行の価値観や文化に沿ったものでなければなりません」。これには、フロンティアモデルで生じうるバイアスのリスクを低減することも含まれます。
責任ある AI の原則は、開発から継続的な監視まで、ソリューションのライフサイクル全体の指針となります。技術の活用規模が拡大しても、安全性、透明性、倫理、規制遵守を確保することを目指しています。
「IARA は、厳しい規制のある環境でガバナンスと可観測性を確保する、欠かせないプラットフォームです」
同行の AI First 戦略は、最終顧客へのサービスにとどまりません。ia.i を支える AI レイヤーは、専門スタッフ、マネージャー、顧客サービスチームの業務も支援しています。
Mazzei 氏によると、その範囲は単純作業の自動化から、これまで実行が難しかったものの、顧客との関係に価値をもたらす業務にまで及びます。面談前の情報要約や準備、個別の課題の把握に加え、以前は思いつきにくく、検討に時間がかかっていた計画や代替案の作成などです。
同行はこの導入に大きな期待を寄せています。顧客との関係構築に使える時間を 3 倍に、サービス提供の速度を最大 2 倍に、対話の有効性を最大 3 倍に高めることを見込んでいます。
「顧客担当者がこれらのツールを使うことで、最も大切なこと、つまりお客さまのために価値を生み出すことに集中できます」
ia.i は第 1 段階で約 30 万人の顧客に提供され、テキストや音声で、手軽な取引から投資のアドバイスまで幅広く対応しています。
IARA プラットフォームは、ガバナンス、可観測性、トークン単位のコスト管理、責任ある AI の徹底を確保しながら、行内のチームがさまざまなモデルを利用できる環境を提供します。
法務向けソリューションは、9,000 万件以上の文書を対象に毎月 200 万件以上のタスクを実行し、20%~80% の効率向上を実現しています。
複数のモデルを使い分けることで、コストや応答時間が重視されるケースにも、より深い推論が必要なケースにも対応できるようになりました。GPT‑5.x モデルは、約 7,000 万人の顧客の金融に関する背景情報を提供する Customer DNA の一部として活用されています。
体験の評価基準は、高度さよりシンプルさ。目指すのは、テクノロジーを意識させず、メリットがはっきりと伝わる体験です。
単一モデルではなく、複数モデルの選択。実際の利用場面では、素早い応答が求められるやり取りと、推論を必要とする意思決定の両方が発生します。
規模拡大に先立つガバナンスレイヤーの構築。可観測性、コスト管理、責任ある AI が、規制の厳しい業界での規模拡大を可能にします。
バイアスへの対応と組織文化との整合性を製品要件に。顧客への回答には、組織の価値観を反映させる必要があります。
組織内部への戦略展開チームに。時間の余裕を生み出すことで、人と人との関わりが最も重要な場面に力を注げるようになります。
口座明細に関する質問や簡単な取引など、日常の具体的な問題から始めます。
まず一部の顧客に提供し、実際の利用行動を学んでから展開を広げます。
モデルへのアクセスを 1 つのプラットフォームに集約し、コストと品質の管理を維持します。
初日からトークンの利用効率を監視します。経済的な実現可能性も設計の一部です。
対話と画面操作を組み合わせます。すべての操作で自然言語が最適とは限りません。
ia.i は進化を続けています。同行は、2026 年末までに全顧客にこの体験を提供する予定です。次の段階では、金融商品のシミュレーションや申し込み、収入・支出・習慣に関する定期的な分析などの機能を計画しています。
Mazzei 氏にとって、この取り組みの意義は製品の枠を超えています。同行は、顧客の習慣や期待が絶えず変わる中、何十年にもわたる変革を乗り越えてきたからです。
「AI 時代をリードするとは、お客さまのニーズにより迅速に応えることです。テクノロジーでどのように価値を生み出し、お客さまが金融商品やサービスをもっとシンプルかつ直接的に利用して、望むことを実現できるよう支援するかを理解することなのです」


