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OpenAI

2025年11月19日

研究

企業の AI 活用を次のフェーズへと進める evals の力

本稿では、評価フレームワーク「evals」がビジネス目標をどのように一貫した成果へつなげるのかを、ビジネスリーダー向けにわかりやすく解説します。

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世界中の100万以上の企業が、効率向上と価値創出のために AI を活用しています。しかし、期待した結果を得られずに苦戦している組織もあります。このギャップはなぜ生まれるのでしょうか。

OpenAI では、野心的な目標の実現に向けて、社内でも AI を活用しています。その中核となるツールのひとつが、AI システムが期待どおりに動作しているかを測定し、改善するための手法である evals です。

製品要件書に近い役割を果たし、曖昧な目標や抽象的な考えを具体的で明確な形に落とし込みます。evals を戦略的に活用することで、顧客向け製品や社内ツールが大規模な環境でも信頼性を保ちやすくなり、重大なエラーの減少やリスク低減につながります。さらに、ROI を測定可能なかたちで向上させる道筋も描けます。

OpenAI では、モデルそのものが製品であるため、研究者は frontier evals(新しいウィンドウで開く) 1 を用いて、モデルがさまざまな領域でどれだけ適切に動作するかを厳密に評価しています。frontier evals によってより優れたモデルを迅速に提供できる一方、特定のビジネス環境やワークフローで確実に機能させるために必要な細かなニュアンスまでは把握できません。そのため、社内チームは特定の製品や社内ワークフローの性能を評価するために、多数の contextual evals も作成しています。こうした理由から、ビジネスリーダーも自社のニーズや運用環境に合わせた contextual evals をどのように作るかを理解しておくことが重要になります。

本稿は、自社で evals を活用したいと考えるビジネスリーダーのための概説です。各組織のワークフローや製品ごとに作られる contextual evals は、現在も進化し続けており、確立されたプロセスはまだ存在しません。そのため本稿では、さまざまな状況で有効性が確認されている包括的なフレームワークを紹介します。この分野は今後さらに発展し、特定のビジネスの文脈や目標に対応した新たなフレームワークが登場すると考えています。たとえば、最先端の AI 搭載コンシューマー製品向けの優れた eval は、標準作業手順に基づく社内オートメーション向けの eval とは異なるプロセスを必要とするかもしれません。以下で紹介するフレームワークは、いずれのケースでも通用するベストプラクティスとして役立ち、自社に合った evals を構築する際の有益な指針になると考えています。

evals の仕組み:特定 → 測定 → 改善

モデル評価のロジックを表す色付きのブロックと矢印が配置された薄い背景の上に、「Eval Blog」というタイトルの図があり、評価コンポーネントやプロセスの流れが示されている。

1. 特定:何をもって「優れている」とするかを定義する

まずは、AI システムの目的を平易な言葉でまとめられる、小規模で裁量のあるチームから始めます。たとえば「ブランドトーンを保ちつつ、有望な問い合わせメールをデモ予約につなげる」といった形です。

このチームは、技術的な専門性とドメイン知識の両方を持つメンバーで構成することが理想的です(この例でいえば、営業の専門家が必要になります)。測定すべき最重要の成果を明確にし、ワークフロー全体を概説し、AI システムが直面する重要な意思決定ポイントを特定できる必要があります。ワークフローの各ステップにおいて、成功の基準と避けるべきポイントを定義します。このプロセスを通じて、数十の入力例(例:問い合わせメール)と、システムに期待する出力の対応関係が整理されます。こうして構築されるゴールデンセットは、「優れている」とは何かについて、最も熟練した専門家の判断とセンスを反映した、実践的で信頼できる基準となります。

最初から難しく考えすぎる必要も、すべてを一度に解決しようとする必要もありません。このプロセスは反復的であり、ときに整理しきれない部分も出てきます。早い段階でプロトタイプを作ることは非常に効果的です。システムの初期バージョンから50〜100件の出力をレビューすることで、どのように、そしていつ失敗しているのかが明らかになります。この「エラー分析」によって、システム改善時に追跡すべきエラーの種類と発生頻度の分類が把握できるようになります。

このプロセスは純粋に技術的なものではなく、ビジネス目標や望ましいプロセスを定義することを中心とした、部門横断的な取り組みです。顧客にとっての最適解や、プロダクト・営業・人事など他部門のニーズを、技術チームだけに判断させるのは適切ではありません。そのため、ドメイン専門家、技術リード、その他の主要なステークホルダーが責任を共有する必要があります。

2. 測定:実環境に即した条件でテストする

次のステップは測定です。測定の目的は、システムがどのように、そしていつ失敗しているのかを示す具体的な例を、確実に洗い出すことです。そのためには、デモやプロンプト用の簡易環境ではなく、実環境に近い専用のテスト環境を用意します。ゴールデンセットとエラー分析を基に、システムが実際に直面するものと同じプレッシャーやエッジケースの下で性能を評価します。

ルーブリックは出力の評価を具体化するのに役立ちますが、全体の目標を見失い、表面的な項目を過度に重視してしまう可能性があります。また、測定が難しい、あるいは不可能な特性も存在します。場合によっては、従来のビジネス指標が重要になります。一方で、新しい指標を作る必要があるケースもあります。プロセス全体を通して専門家を関与させ、主要な目標と密接に整合させることが重要です。

実際にシステムをテストする際は、可能な限り実環境の事例を使用し、まれでも扱いを誤ると大きなコストにつながるエッジケースも、組み込むか新たに作成します。

一部の evals は、専門家と同じように出力を採点する LLM grader を使うことで拡張できますが、それでも人間によるチェックは欠かせません。ドメイン専門家は、LLM grader の精度を定期的に監査し、システムの動作ログを直接確認する必要があります。

evals は、システムがリリース可能かどうかを判断する助けになりますが、リリース後も続けて実施する必要があります。実際の入力から生成されるシステムの出力品質は、継続的に測定するべきです。どのような製品でも、外部・内部を問わずエンドユーザーからのシグナルは特に重要であり、evals に組み込む必要があります。

3. 改善:エラーから学ぶ

最後のステップは、継続的な改善のためのプロセスを構築することです。eval で明らかになった問題への対処として、プロンプトの改善、データアクセスの調整、目標をより正確に反映するための eval 自体の更新など、さまざまな方法があります。新たな種類のエラーが見つかったら、エラー分析に追加し、順次対処します。各反復は前回の成果を積み重ねていきます。新たな基準やシステム挙動への明確な期待値を設けることが、これまで見えなかったエッジケースや見落とされがちな手強い問題の発見につながります。

この反復を支えるため、データフライホイールを構築します。入力・出力・結果をログに記録し、定期的にサンプリングしたうえで、曖昧なケースやコストがかさむケースを自動的に専門家レビューへ振り分けます。専門家の判断を eval とエラー分析に追加し、それらを基にプロンプトやツール、モデルを更新します。このループを通じて、システムに求める期待値がより明確になり、それに沿った改善を進めやすくなります。また、追跡すべき新たな出力や成果も把握しやすくなります。このプロセスを大規模に展開することで、模倣が難しい、大規模で差別化され文脈に特化したデータセットが得られます。これは、市場で最適な製品やプロセスを構築する際に活用できる貴重な資産となります。

evals は AI システムを改善する体系的な方法を提供しますが、新たな失敗パターンが生じる可能性もあります。実際には、モデルやデータ、ビジネス目標の変化に応じて、evals も継続的に保守・拡張し、ストレステストを実施する必要があります。

外部向けのデプロイでは、evals は従来の A/B テストや製品実験の代替にはなりません。evals は従来の実験手法を補完するもので、両者が互いに補い合うことで、加えた変更が実環境のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを可視化できます。

ビジネスリーダーにとっての evals の意味

重大な技術の転換期には、業務の卓越性や競争優位が常に再定義されます。OKR や KPI のようなフレームワークは、ビッグデータ分析の時代において、組織が「重要なことを測定する」ための基盤づくりに貢献してきました。evals は、AI 時代における「測定」の自然な進化形です。

確率的なシステムを扱うには、新しい種類の測定手法と、トレードオフに対するより深い検討が必要です。リーダーは、精度が不可欠な場面と柔軟性を許容できる場面を見極め、スピードと信頼性のバランスをどう取るかを判断しなければなりません。

evals の実装が難しい理由は、優れた製品づくりが難しい理由と共通しています。厳密さ、ビジョン、そしてセンスが求められるのです。evals をうまく設計・活用できれば、それ自体が独自の差別化要因になります。情報が世界中で自由に入手でき、専門知識が民主化されている今、競争優位は「自社の文脈でシステムをいかに適切に運用できるか」にかかっています。しっかりと構築された evals は、システムの改善に伴い、継続的な優位性と組織のナレッジとして蓄積されていきます。

evals の本質は、ビジネスの文脈と目標を深く理解することにあります。自社のユースケースにおける「優れた状態」を定義できなければ、それを達成することは困難です。この意味で、evals は AI 時代の重要な教訓を示しています。それは「マネジメントスキルこそが AI スキルである」ということです。明確な目標、率直なフィードバック、慎重な判断、自社の価値提案・戦略・プロセスを明確に理解することは、今もなお、そしてこれまで以上に重要な要素です。

今後、ベストプラクティスやフレームワークが増えるにつれ、それらを順次共有していきます。それまでの間、まずは evals を試し、自社に最適なプロセスを見極めることをお勧めします。始めるにあたっては、解決すべき課題とドメイン専門家を特定し、小規模なチームを編成してください。OpenAI API を利用している場合は、Platform Docs(新しいウィンドウで開く) もご参照ください。

「優れた結果」をただ期待するのではなく、それを定義し、測定し、そして改善していくのです。

著者

OpenAI

脚注

  1. 1

    次世代 AI モデル構築にご関心がある場合は、実環境のタスクにおける AI モデルの性能を測定する最新のベンチマーク「GDPVal」への参加をご検討ください。業界の専門家で GDPVal への貢献をご希望の方は、こちらから参加意向をお知らせください。OpenAI と協働しているお客様で、次期 GDPVal サイクルへの参加を希望される場合は、こちらからお知らせください